ダイナミックレンジ

「Arbitrary Time in 京都 」は小林先生のダイナミックレンジの話で始まりました。

デジタルオーディオ特有の広いダイナミックレンジを活かして 自然な生楽器の音を楽しめるように収録するのが有るべき姿であるとレンジの広い録音と狭いものの違いをDATのレベルメーターを用いて示されどちらが自然に聴こえるかを問われていました。
井上先生が用意されたクラシックのソフトも弱音部は音が小さく合奏のフォルテッシモで大きな音のするダイナミックレンジが広い収録のものでした。
拙がリファレンスに使っている谷本久美子嬢のCDはワンポイント録音したものを無加工でリリースしたものでダイナミックレンジの圧縮がなくリアルな演奏空間が浮かび上がります。

一方アナログレコードは針の擦動音に埋もれてしまわないように弱音部のレベルを上げフォルテッシモでの針飛びを避けるためコンプレッサーをかけてカッティングしなければなりません。
ダイナミックレンジを抑えた音ですが、長年アナログレコードを聴き込んできた者にとってはそう言った音調が好ましいのも事実です。
謂わばアナログレコードは佃煮のような濃厚な味なので上品な椀ものの吸い物の旨さより分かりやすくリスナーの支持を得やすいように思います。

小林先生はデジタルオーディオも濃厚な味を求めてダイナミックレンジの狭いマスタリングが加速してゆく現実に苦言を呈しておられましたが、音楽をサウンドと捉えるとこの風潮は益々正当化されるのかも知れません。
ジャズやポップスではサウンドが勝った音が好まれるのでアナログレコードを良しとする方が多いように思います。
圧縮したものの方が良いとするならジャズやポップスではMP3のようなナローダイナミックレンジの方が理にかなっているのかも知れません。
携帯音楽プレーヤーやスマートフォンで鳴らされているのは殆どがポップス系の音楽のように思います。

一方アナログテープデッキのダイナミックレンジを拡げるためにdbxなるエキスパンダーを用いてフルオーケストラの広大なダイナミックレンジをなんとか収録しようとした時代がありました。
オープンリール+エキスパンダー前提のテープメディアや30センチLPサイズながら45回転でリリースされたダイレクトカッティングレコードはダイナミックレンジの広い自然な音に近づけようとの熱意がありました。
そのスペックを超えるCDの出現でダイナミックレンジを広げようとしたアナログメディアは淘汰されてしまいましたが、待望のワイドダイナミックレンジメディアの出現はどうしたことかコンプレッサーとリミッターを活用して濃厚な味に仕上げて販売に結びつけようとする方向が幅を利かせています。

温故知新の筈が先祖帰りになった上にその音調をハイレゾリューション化したものを良しとする論調が重なりハイスペック、ハイレゾリューション大容量デジタルメディアがこれからのオーディオのあるべき姿などと喧伝しているようでは仏作って魂入れずのような気がしてなりません。
小さな葛篭より大きな葛篭を持って帰った意地悪爺さんの話を思い浮かべてしまいます。
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