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真空管

真空管とは人類が初めて手にした電子デバイスでありながら、100年以上も愛用されている稀有な存在です。
国内の生産工場はなくなって久しいのですが、今も海外では新品が生産されています。
出力管にはこれまでに無かった新型番のものが現れたりしてはいますが、電圧増幅管などは昔と同じ型番、規格で生産されています。

素子を半田付けして使うトランジスターとは違い寿命のある真空管では真空管ソケットに挿し替えて使う必要があるためメーカーが異なっても同じ規格のものが作られています。
寿命があることに抵抗感を覚える方も居られますが、リスナーもまた日々成長しながらも日々老いる存在であることを思えば、役目を果たして寿命を終えることの方が自然なのかもしれません。

古今東西、不老不死にまつわる話はたくさんありますが、なんら変わらないものには魅力を感じなくなるのではないでしょうか?
不老不死なら働く必要はなくなり、周りに対する関心や興味を覚えることもなく結局は毎日なにもせずに過ごすことになるように思います。
学ばずとも働かなくとも生きていけるのなら遊んで暮らせそうですが、すべてに飽きた感動の無い日々が永遠に続く世界は地獄なのかも知れません。

閑話休題、人と同じように寿命のある真空管を大切に使い、聴きたいと思ったレコード盤一枚、CDディスク一枚を鳴らすために電源スイッチを入れるといった世界観が人間の感性に沿うと思ったりします。
終わりの無いものに魅力を感じないのは個人的なものかも知れませんが、「侘び寂び」といったことや「季節の移ろい」を真空管アンプに重ねてしまうのは日本文化のせいなのかも知れません。

硝子管の中に配された金属に電極の役割を持たせて電子素子として働かせる人間の知恵を具現化したような真空管に、ひとつの閉じられた別世界を感じさせるのも魅力だと感じています。
硝子管の中は決して触れることを許されない空間であり、生き物にとっては命を支えている空気に一瞬でも触れると破壊されてしまう世界を掌の中にしてみると、なんとも不思議な感覚に襲われるのです。

何よりも真空管のブランドを替えるだけで、好みの音質に持っていけるのもトランジスターアンプには出来ない芸当で、所謂銘管ブランドで固めれば「よい音」になるわけでもないところがミソです。
色々試して自分に合うものへの道程こそがオーディオや音楽への理解を進めることになり、変化の傾向やその過程を楽しむことで音楽表現についての理解を更新できるのも、真空管アンプのよさだと思うのでございます。

アンプの回路

当初のトランジスターアンプは真空管アンプの回路をトランジスターに置き替えただけのようなものでした。
「球」ではなく「石」と称されトランジスターアンプのパネルには小さく「〇Tr」と「石」の数の多さを謳っていたものですが,現在では多くの素子を配して演算増幅器の回路構成をディスクリート化して出力段をパワートランジスタに置き替えたような回路が多くなっています。
総じて入力段は差動増幅回路で組まれており、次段で更に高めた電圧をドライバー段に送り、パワートランジスタのエミッターフォロアのコンプリメンタリー出力段で出力しています。
差動回路の特性を向上させたり、安定性を向上させるカレントミラー回路や定電流回路などの補完回路が配され段間は直結化されています。

真空管アンプは電圧増幅管を一段ないし二段配して段間コンデンサーを介して出力管に送るというシンプルな回路が多く、出力インピーダンスの高い出力管の出力をインピーダンス整合器の出力トランスを介してスピーカーを鳴らしています。
複合管を使った小出力アンプでは片チャンネルを1本の真空管で賄うものまであります。

DCアンプがブームになった頃などコンデンサー結合の回路というだけで時代遅れの色付けのあるアンプなどと喧伝され、出力トランスを載せている真空管アンプなど言語道断の噴飯もののように言われたりしましたが、回路は眺めるものではない上に回路図を読み取って出てくる音を想像できる超達人はともかく抵抗器一本を変えるだけでも「音」の変わるオーディオでは百見は一聴に如かずであり、入力ソースとスピーカーをアンプの前後に繋いでこそ分かるものです。

トランジスターアンプと真空管アンプとの最大の違いはエミッターフォロア(FETパワーアンプの場合はソースフォロワー)の出力で直接スピーカーを駆動しているか、出力トランスを介してスピーカーを鳴らしているかの違いに加え、現在のトランジスターアンプでは結合コンデンサーの音こそしないものの、よくも悪しくも多くの素子に揉まれてきたような音を聞かされているようにも感じます。
更に言えば、CDソースの音とアナログレコードの音の違いは、デジタル/アナログではなくスピーカーを動かすまでの膨大な素子の数にあるのかもしれません。

少ない素子でトランジスターアンプと同等の特性を備えた真空管アンプであれば、新鮮な音が出るのではないかと思っていたのでございます。

増幅素子と出力トランス

真空管と同じ働きをするNch半導体に加えて電気的に逆特性を持つPch半導体が現れたトランジスターアンプはコンプリメンタリー素子で組めるようになりました。
逆特性を持つ真空管を作る術の無かった真空管アンプはオーソドックスなアンプ回路をなぞるかのような製品を綿々とリリースするしか術がありませんでした。

しかしトランジスターアンプの出現は増幅素子の物理的電子的な違いだけでなく音質傾向が真空管とは異なるものである事を明確にしました。

モノラルレコードしか無かった時代にはステレオレコードは当然のことながら存在しないためモノラルの鳴らし方とステレオの鳴らし方が異なることが分からなかったようにトランジスターアンプの市場拡大は真空管アンプの姿を浮かび揚がらせてくれたのです。

十把一絡げな言い方になりますが、高電圧,高インピーダンス素子の真空管アンプは音階がやや不明瞭になり勝ちながらも膨らみのある暖色系の「音色」であり,高電流,低インピーダンス素子のトランジスターアンプは音階の明瞭さはあるもの痩せ気味で固く寒色系の「音色」がするといった表現がなされていました。

硝子管の中に物理的に配した電極にフィラメントやヒーターを焚いて電子を飛ばして鳴らしていることからの連想がそう感じさせているのかもしれませんが,年々半導体アンプは初期のイメージを覆すようなものになり真空管アンプメーカーとしてはこちら側に近づいているようにも感じております。

新素子が沢山作り出されて選択肢が広くなったトランジスターに対して,真空管にはほんの僅かな新規格の出力管が現れたものの半世紀前と変わらない規格の「球」しかなく、これまでのイメージから抜け出たような音質のアンプは皆無と言った状況でした。

ただ真空管アンプには電子増幅素子ではありませんがインピーダンス整合器=出力トランスという出力管と一対で働いている存在があります。
出力トランスを余計な存在と考えた真空管アンプの話を前回記しましたが、長い間に培われたオーディオ・ノウハウの詰まった出力トランスを活かすことで今までに無かった真空管アンプの完成に至ったのが「真空管ボルテージフォロワー」アンプなのです。

真空管OTLアンプ


トランジスターアンプが台頭してくると、それまで搭載している出力トランスの優秀性を訴えていたアンプメーカーが掌返しのようにOTLアンプだから音がよいと言った広告を打つようになりました。
熱心な真空管アンプメーカーはそれではとばかりに出力トランスレスの真空管OTLアンプを市場に送り出しました。

半導体アンプ以前から真空管OTLアンプがあったのか、出力トランスを省けば良い音が出ると思い込んでしまったのかはわかりませんが、内部インピーダンスを下げるために多数の出力管を並べた機体は、まだ物量作戦が功を奏していた時代背景もあり高級アンプは真空管が担うかのような勢いがありました。
今から考えれば素子の並列駆動は音のエッジが甘くなる傾向があるだけでなく故障する率が高くなります。
また直流がスピーカーに流れ込まないようにカップリングされていた出力電解コンデンサーも省いたOUTPUT CONDENSER LESS=OCLアンプもリリースされました。
回路だけをみるとトランジスターアンプ素子を真空管に置き換えたように見えますが、寿命のある真空管に±の電圧を印加中点に直接スピーカーを繋ぐことになりますのでスピーカーコイル焼損器にさえなり兼ねないものでした。
±の高い電圧を掛けた中点を0Vに保たせてグラウンドとの間に、直流を流すと直ぐに焼損してしまうスピーカーを繋ぐわけですから、レコードの針がエンドサークルに達するまでの間にボイスコイルが突然に焼ききれるのではないかという緊張感は只者では無かったと聞き及びます。

真空管OTLアンプをスピーカーのインピーダンスより低い出力インピーダンスに設えることは至難の業であるため、真空管アンプの抱えているウイークポイントを強化したアンプだったのかと思う次第です。

大昔の真空管アンプとトランジスターアンプ

真空管がアンプの増幅素子の担い手だった頃に現れ始めたトランジスターアンプは真空管アンプの回路をそのまま半導体素子に置か換えたような回路のものでした。
真空管パワーアンプの出力トランスのような高電圧が掛からずインピーダンス比も少なかったため小型のものが使われていました。

やがてパワートランジスタを使ったエミッターフォロア出力段が採用されるようになると出力インピーダンスはスピーカーのインピーダンスを下回るようになり出力トランス不要のOUTPUT TRANS LESS=OTLアンプがトランジスターアンプの主流になっていきました。

ここではアンプの音質よりトランスコストの掛からないメリットを選択したアンプメーカーが真空管からトランジスターに軸足を移したことを記しておきます。

コストメリットに加えて真空管には必須のヒーター電源が不要な上に寿命が長くサイズが小さいというメーカーにとって多くのメリットがあり徐々にメーカーアンプの殆どはトランジスターアンプになってしまいました。

コンソール型のステレオ装置の頃はまだ真空管が中に収まっていましたが、セパレートステレオ装置が広まる頃にはトランジスターアンプが主流になり「〇球」という言葉に代えて「〇石」、「〇Tr」などという表示がチューナーの窓の端に数字があったような気がします。

随分前の話を持ち出したのはその頃のトランジスターアンプの回路は過去のものとなりましたが、真空管アンプの回路は実際のところ「十年一日の如し」どころか化石のごとく進化が止まっていることを記したかったのだとご理解ください。
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